私の中の沙露姫
「春琴夢幻」から五年ぶり、この博品館の舞台にもどってきた。前回は佐助に目を突かせ、今回は四郎の首をはねるー女の執念は怖ろしい。
ワイルドのサロメに天草四郎を配するという、ユニークな台本に勇躍取りくんだが、これは大変な仕事だった。『サロメ』という特異な世界と、島原の乱という雄大で悲壮な背景、それぞれが私の中でふくれ上がり、ひしめき合った。結局、それらを下敷きとしたオリジナルと考え、頭の中を整理することにした。
沙露姫には、坂口安吾の夜長姫のイメージもだぶらせてみようかと思う。複雑で単純な、無邪気な残酷な女たち。もしかしたら、私にとても似ている女たち?
遠く時代を遡っても、人間のドラマは現在(いま)と変わっていないー元日、テレビの画面に拡がる古墳や遺跡を見るうち、実感した。本番まで、サロメと自分の中をいきつもどりつしながら、”私の沙露姫”が誕生していく。
日頃から、ジャンルの壁をとり除いた、トータルな空間を目指しているが、今回はまたまたすばらしいスタッフ・キャストに恵まれ、競演というよりは、火花散る戦いになるだろう。
1985.2 博品館劇場
1986.4 アメリカ(ニューヨーク・ボストン)
1986.9 俳優座